2-1.糖質の"質"を考慮して取り入れる

東京都栄養士会会長
駒沢女子大学人間健康学部健康栄養学科教授

――小児1型糖尿病患者さんに対する糖質摂取の方法についてお聞かせ下さい

西村 小児1型糖尿病は、インスリンが膵臓から全く出ない、もしくは、ほとんど出ない状態になる病気です。糖質を摂取した後、血液中に増加する糖はインスリンの働きによって吸収されていきます。そのインスリンが出ないため、小児1型糖尿病患者さんは、糖質を摂取した後はインスリン注射をしないと血糖値が上がりすぎてしまいます。一方で、子供の成長という面から見ると、糖質、タンパク質、脂質をバランス良く摂って、身体を作っていく必要がありますので、糖質を悪者にはできません。

 最近は良いインスリン製剤も出ているため、小児1型糖尿病患者さんでも高血糖が問題になることは少なくなってきましたが、私共の病院ではできるだけリスクの低い糖質を選択して栄養指導に役立てる取組みをしています。糖質の中には、グルコースやスクロースのように消化吸収スピードが速いものと、パラチノースのように消化吸収スピードが遅いものがあります。消化吸収速度の遅い糖質であれば、小児1型糖尿病患者さんにとっても血糖値の乱高下を引き起こしにくくなりますので、リスクを減らせるものと考えています。

――血糖値に影響しない甘味料の使用はないのでしょうか?

西村 血糖値に影響しないゼロカロリーの甘味料がありますが、小児には十分なエネルギーを摂取させて体を成長させていかなければなりませんので適しません。エネルギーとしては、しっかりと摂取させ、かつ、血糖コントロールをしたいという際には消化吸収がゆっくりな、いわゆるスローカロリー甘味料を使用します。つぼみの会(小児1型糖尿病患者と家族の会)のサマーキャンプでは、スローカロリー甘味料を長年にわたって使用しています。

――それでは、在宅訪問の管理栄養士は、糖質摂取についてどのように考慮していますか?

西村 我々は、長年にわたり糖尿病の栄養指導という形で患者さんと係わってきました。20年・30年経過し、その患者さんも高齢者になりました。足腰が弱ってきたために、病院に通院することが難しい方も増えてきました。今後は、こういった高齢者が増えるため、在宅訪問による栄養指導がもっと必要になってくると考えています。

 ご存知の通り、高齢者の中でも、糖尿病は年々増えてきています。ゼロカロリーの甘味料を使用して血糖を上げなければ良いという考えもありますが、高齢者の場合は、摂取エネルギーが不足することによる"サルコペニア"にも考慮していく必要があります。食事の量が少ない高齢者では、しっかりとエネルギーが摂取できる食材が望まれます。糖質に関しては、急激な血糖変化を引き起こさずにエネルギーがしっかり摂れるパラチノースは、非常に使いやすい糖質といえます。

――日頃の栄養指導のなかで、糖質に関係する事項で管理が難しいと感じるところはございますか?

西村 最近、テレビや雑誌などのメディアでは、極端な糖質制限食でダイエットを促すことが多くみられます。糖尿病患者さんのなかにも、テレビや雑誌で見て民間療法的に糖質制限を実施される方がいますが、我々としては警告をしています。糖質は、大切なエネルギー源です。極端に糖質を減らしてしまえば全て大丈夫、といった極端な考え方ではなく、バランスのとれた食事をベースに、個々人にあった食事を選択していくべきでしょう。

出典:食品化学新聞 2014年12月25日(第2565号)

2-2. 小児・高齢者に適した機能性糖質

――糖質制限の考え方について、西村先生の見解に関してお話し下さい

西村 糖質は非常に大切なエネルギー源となりますので、極端な糖質制限食は避けたほうが良いですね。ただし、高度肥満や日常における糖質摂取が非常に多いケースによっては、糖質制限ではなく適量の糖質に戻す意味で摂取量を減らすことは必要であると思います。ダイエットを目的とした場合などでは、糖質を削減することで結果が出やすいこともありますので、短期間であれば推奨することもあります。

――機能性糖質を取り入れることについての意義は、どこにありますか?

西村 糖質が悪者にされている理由としては、急激な血糖上昇とそれに伴うインスリンの過剰分泌にあるかと思います。インスリンの過剰分泌は、糖尿病に限らず、メタボリックシンドロームなどの他の疾患にも影響を及ぼします。機能性糖質というと、低カロリーの甘味料を連想するかもしれませんが、スローカロリー甘味料のような糖質はしっかり糖質としてのエネルギーを持ちながら急激に血糖を上げず、インスリンを適量分泌させるため、今後より注目されるべき糖質だと考えます。

――西村先生がスローカロリー甘味料に出会う以前は、どのような甘味素材を使用されていたのでしょうか

西村 一般的なカロリーゼロの甘味料を使用していました。カロリーゼロの甘味料は、小児や高齢者などのエネルギー摂取が必要な患者さん以外では、有効な素材であると思っています。しかし、お砂糖の甘さを好む方は、カロリーゼロの甘味料の味を敬遠することもあります。また、料理に使用した際には、テリやツヤがでません。甘さを代替するものではあるものの、お砂糖の替わりにはならないと考える患者さんを多く見てきたことも事実です。特に高齢者の方は、和食で使い難いといった声を聞くことがあります。過去に結果として、みりんを多く使いすぎたためにカロリーゼロの甘味料を使用した意味がなかった方もいましたね。笑い話ではないですが、現実には、そのようなことがありますね。

――スローカロリーとの出会いはどのようなものだったのでしょうか

西村 最初に知ったのは、小児1型糖尿病のサマーキャンプでした。まさに、我々が求めていた考え方でした。過去、小児1型糖尿病の患者さんは、厳しい食生活を送ってきたために低身長をはじめとする成長障害の問題がありました。昔は、インスリンの種類も今と比べて充実していませんでしたので、食生活が厳しく制限されたなかで、摂食障害を繰り返しトラウマになる子供たちも一部でいました。我々の取り組みの一つとして、摂食障害と成長障害をなくそうということがサマーキャンプにおける目標でした。

――医療分野では使われてるのですか?

西村 スローカロリー甘味料は、血糖値を上げにくくするために経腸栄養剤に採用されていたり、腎臓病患者さん向けの糖質調整食品などにも昔から使用されています。

――スローカロリーの認知を広める方法は?

西村 健康に関連する食品素材の認知向上のためには、管理栄養士が中心となり、医療従事者からの発信が重要だと思います。ただし、テレビや雑誌などのメディアの力はやはり強いと感じます。メディアが発信する民間療法的な考え方や情報が広まり、患者さんからの質問が医療現場に多く寄せられることもあります。素材を良く調べてみると、中には信憑性に欠ける素材もあり回答に困ることもありますね。逆に良い素材であれば積極的にメディアに情報発信していただき、患者さんの関心が高いものを正しい情報でお伝えすることが効果的かと思います。管理栄養士としても推奨できる素材であれば、一時的なブームで市場から消えるということもないでしょう。

出典:食品化学新聞 2014年12月25日(第2565号)