4-1.甘みを上手に取り入れストレス緩和を

東京女子医科大学病院
栄養管理部栄養副士長

――食における「甘さ」と「ストレス」の関係について教えてください。

柴崎   心身にストレスがかかると甘いものが欲しくなりますよね。私は甘いものを否定するのではなく、いかに癒しとして上手に甘いものを取り入れてストレスの緩和に繋げられるかが重要ではないかと考えます。スイーツや菓子などの甘いものを過度に減らそうとすると、それがストレスにつながり、結果的に反動で過食してしまうこともあるかと思います。

 医療現場では、特に糖尿病患者さんの食事療法では、「糖尿病=砂糖はいけない」と考えている患者さんが多く見受けられますが、砂糖を摂取してはいけないということではなく、摂り過ぎてはいけない、適量、食べるタイミングを見直し、上手に摂ってください。

 しかし、患者さんのなかには、医療スタッフや家族にお菓子は「ダメ」と言われ、我慢はしてみたものの、結局は食べたくなり、隠れ食いをしてしまうということもあります。このような隠れ食いの現象は、スイーツやお菓子といった甘さに対してだけの問題ではなく、どのような食品でも適量の食べ方を知らないがために、食べたいものを極端に我慢すれば、どこかで反動がきます。

――「甘さ」と「ストレス」の関係に対し、ゼロカロリーの甘味料とエネルギーのある糖質との違いはありますか

柴崎   ゼロカロリーのものはエネルギーにはなりませんので、血糖値が上がりません。ある程度、血糖値が上がるからこそ満腹中枢が刺激され食欲が収まります。血糖値が上がらないということは生理機能的には満足感は得られませんが、甘味を感じること、食べたという行為に安心しているように思えます。それを承知で上手に取り入れれば良いのですが、果たしてそうかという問題があります。私の経験では、本人が納得してゼロカロリーを摂取している患者さんは上手くいきますが、「ゼロカロリーならとってもいいんでしょ」といったスタンスの患者さんは失敗するケースが多くみられます。つまり、砂糖代替甘味料を取り入れるに当たり、本人の姿勢が結果に大きく左右します。

 たくさん食べたいから代替甘味料を使用するという考え方と、適量だけど砂糖を使用したものを食べるという考え方があれば、私は後者の方を勧めます。砂糖を使用した各種スイーツやお菓子をタイミング良く適量、おいしく食べることの方が前向きだと思っています。ただし、患者さんごとに食生活や目指すゴールは異なります。これなら安心という使い方の正解はありませんので、提供する側がしっかりと説明できるかが重要です。したがって、私はゼロカロリーが駄目だとは思っていません。患者さんの状態に合わせ、砂糖と代替甘味料を組み合わせて上手に使っていくことが重要ではないでしょうか。

 今日も患者さんから「ゼロカロリーのキャンディを見つけたんです」と報告を受けた際に、「良かったね。これなら甘いものが欲しい時に安心だね」と話をしました。患者さんは、安心が欲しい部分も確かにあります。砂糖と代替甘味料の使い分けを管理栄養士が理解して患者さんに説明できれば、ストレスを緩和することができます。その理解が乏しいと、管理下にある入院中は食事療法が守られるのですが、退院し、自由になるともとの食生活スタイルに戻り、血糖コントロールが悪化するといった例も出てきます。

 一方、最近は思春期のやせ症で、母親が食にこだわり過ぎた結果、子供は甘いものを食べたことがないという例も見られます。そういった子供は、スイーツや菓子などの甘いものを否定した環境に慣れているため、甘いものを摂取しないことに対するストレスもありませんが、甘さに関わるおいしさや楽しさ、幸せといった感情が生まれにくく、食事にも興味を持たなくなり、痩せ症を招く要因の一つになることもあります。

出典:食品化学新聞 2016年3月3日(第2623号)

4-2. 炭水化物の質と喫食のタイミングを考える

――患者さんへの食事指導をする際に、糖質や食事の摂取方法についてどのような視点で指導を行っていますか

柴崎   現在の食事摂取基準では、総エネルギーの50~65%は炭水化物から摂取することを推奨しています。炭水化物のなかに糖質と食物繊維が含まれます。お米を例とすれば世間一般的には、精白されたものよりも玄米のほうが体に良いと言われていますね。これは、食物繊維を食事の始めに摂取することで体内への吸収が緩やかになるとともに、食後高血糖が玄米の方が起きにくいということに起因していると思います。つまり、炭水化物を摂取するにしても、どんな炭水化物を摂るか、という視点ですね。

 一方、例えばお菓子の話をすると、活動パターンによって、空腹時に食べて血糖値を急激に上昇させるよりも、食後に食べたほうが良いのではないか、または、スポーツなど活動をする前に食べたほうが良いのではないか、といった考え方があります。つまり、どんなタイミングで炭水化物を摂るか、という視点です。スイーツを「食べてはいけない」と指導するのではなく、「食べるのであればこのタイミング」という指導をしています。何かを頑張った時のご褒美のスイーツよりもこれから何かを頑張るための活力源のスイーツになれば良いですね。

 日本は米文化です。農家さんが一生懸命おいしいものを作ろうと努力した結果、美味しい精白米を提供しているにも関わらず、玄米が良いと言われては残念な話になりますね。豊かになろうと頑張っているのに、健康面だけを見て全否定されているのは残念です。メリハリをつけて週末だけは美味しいお米やスイーツを食べるというのも良いと思います。「週末にあれを食べたいから平日は頑張れる」と考えた方がポジティブです。患者さんの食生活を否定することは、患者さん自身を否定していることと同じになってしまう場合もありますので。

 私が担当しているのは、多くは糖尿病の患者さんですが、あとは、一般的には摂食障害といわれる神経性やせ症の患者さんです。ある拒食症の患者さんは160㎝で28㎏という極度の痩せ体型です。もともと努力家で、勉強などで努力をした分だけ結果が得られていた人が何かに挫折をしたとします。その後、ダイエットに目を向けると、食べさえしなければ体重が減少し成果がでますので、どこまでも突き進んでしまうのです。

 いざ、食べるとなると、筋肉が落ちて極度の胃下垂となっているため食べようにも食べられません。逆に、少しずつでも食べられるようになってくると、歯止めが利かずに食べ続けることになります。この間まで20㎏台だった人が数カ月の間に60㎏台に突入するといったことがあります。摂食障害の患者さんは生きるか死ぬかの際の経管栄養は行われていますが、通常の生活となった場合の食事指導は不十分です。どのような病気でも、多くの患者さんには食べたいという欲求があります。食べ方を否定するよりは、どのようにおいしく、楽しく食べるかを考えていきます。信頼関係が出来た後に初めて「ダメ」と言えます。拒食と過食は表裏一体と言われており、ストレスが溜まり制限すればするほど食への欲求増大してしまいますので。

――ゆっくり消化吸収され食後高血糖を防ぐスローカロリーが、スローカロリーな食生活を実践するためには、どうすればよろしいでしょうか

柴崎   野菜を先に食べてご飯を最後にという食べる順番も大切かも知れませんが、私は、ゆっくり食べ、楽しみながら食事をすることが最も大切であると思います。私が大学院で学んだ科目に食看護学がありました。その中でナイチンゲールの看護覚え書というものがあり食事をするためにふさわしい環境になっているのかを説いている内容でした。空気、陽光、暖かさ、清潔さ、静かさなどを整えることが必要だというもので、私は非常に感銘を受けました。そのためか、私は看護よりの管理栄養士と言われています。

 私は、管理栄養士なのにほとんどカロリー計算の話はしません。カロリー計算をしている人が健康なわけでもなく、逆に健康な人がカロリー計算をしているわけでもありません。食事そのものの質だけではなく、食べる環境を考えることが重要ではないかと感じます。例えば「早食いを止めなさい」といっても、早食いせざるを得ない環境の方もいますので。その場合は「急いで食べるのであれば、これを食べたらどうでしょう」といった方が建設的です。個々人の環境に合わせてスローカロリーを実践できればと思います。

出典:食品化学新聞 2016年4月7日(第2628号)